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福井地方裁判所敦賀支部 昭和49年(ワ)15号 判決 1975年10月23日

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告ら)

「一 被告は原告らに対し、各金二七五万円およびこれに対する昭和四七年一〇月一九日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二 訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決ならびに仮執行宣言。

(被告)

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  事故の発生

原告らの子訴外高橋巧(以下、亡巧と称する。)は、次の交通事故によつて死亡した。

(一) 発生時 昭和四七年一〇月一八日午後九時頃

(二) 発生場所 敦賀市呉竹町笙の川西岸堤防上

(三) 加害車 大型トラツク(福井一一な六八四)

右所有者 春山利夫

運転者 金島宏こと金宏(以下、金宏と称する。)

(四) 被害車 自動二輪車(一福井い八一四七)

(五) 事故の態様と結果

亡巧は被害車を運転して前記堤防上の道路を北進中、進路前方の道路上事故現場に無燈火で駐車中の加害車を避けようとして、道路右側部分に進路を転じようとしたが、及ばずこれと接触し、そのため道路右側端から堤防下へ落下し、顔面骨骨折、左上膊複雑骨折、出血多量となり、事故当夜一一時頃死亡した。

二  責任原因

被告は、前記加害車についての、昭和四七年六月一四日から同四八年六月一四日までの期間における自動車損害賠償責任保険の保険者であるところ、本件事故発生時は右保険期間内であり、道路上の駐車は自動車の運行の一態様であるから、被告は、自動車損害賠償保障法(以下、自賠法と称する。)一六条により、右期間中における加害車の運行によつて生じた亡巧の死亡事故による損害につき賠償義務がある。

三  損害

(一) 亡巧の逸失利益 三五〇万円

亡巧は、事故当時満一八歳の健康な男子であり、翌年春から就職する予定であつた。本件事故がなければ同人の得たであろう収入を次の控え目な基準で算定すると、別表のとおり金一三〇〇万円余となるが、そのうち三五〇万円を請求する。

就労期間 一九歳から六四歳まで

収入額 昭和四七年度福井県下全産業男子労働者平均賃金(但し、別表記載の年齢帯別)

生活控除費 収入の五〇%

中間利息控除 ホフマン係数

(二) 亡巧の慰藉料 五〇万円

同人が就職直前の状態にあつたことを考えれば三〇〇万円を下らないが、そのうち五〇万円を請求する。

(三) 原告らの相続

原告高橋実は亡巧の父、原告高橋くにはその母であるから、昭和四七年一〇月一八日亡巧の死亡によつて開始した相続により、前記(一)(二)記載の損害賠償債権を各二分の一づつ取得した。同時に、亡巧が被告に対して有する自賠法一六条による損害賠償請求権をも取得した。

(四) 原告ら固有の慰藉料 各五〇万円

亡巧が家庭においては専ら原告らの手によつて養育されていたこと、亡巧が卒業就職直前であつたこと、原告らが老境に近く他に男子のないことなどを考慮すると、各二〇〇万円が相当であるが、そのうち各五〇万円を請求する。

(五) 弁護士費用 五〇万円

原告らは所定の手続により右損害賠償の請求をしたが、被告はこれに応じなかつたので、原告らはやむを得ず原告代理人らにその取立訴訟を委任した。その費用は福井弁護士会報酬規定によると最低九二万一五〇〇円であるところ、原告らはそのうち少なくとも請求額一割に相当する五〇万円(各原告二五万円)の出捐を余儀なくされている。

四  よつて原告らは、損害賠償金各二七五万円およびこれに対する本件事故発生の翌日である昭和四七年一〇月一九日から支払済に至るまで民法所定の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する認否)

一  請求原因一項の事実(事故の発生)中、運転者、事故の態様は否認、事故の結果は不知。その余の事実は認める。

二  同二項の事実(責任原因)中、被告が加害車につき原告主張の期間における自動車損害賠償責任保険の保険者であることおよび本件事故発生時は右保険期間内であることは認めるが、その余の主張は争う。

三  同三項(損害)の事実はすべて不知。

(被告の主張)

一  本件加害車の運転者であつた訴外金は、加害車を何らの違反なく適法に駐車していたものであつて、これは自賠法三条の「運行」に該当しない。

二  仮りに「運行」に該当するとしても、加害車の所有者および運転者はその運行に関し注意を怠つてはいない。

すなわち、(1)夜間自動車が道路にあるときは、道路交通法五二条一項により、燈火をつけなければならないが、道路運送車両の保安基準三八条に定める後部反射鏡があれば点燈しなくてもよいところ、加害車の後部反射鏡は当夜有効に設置作動していた。(2)本件道路は幅員五・五メートルであり、加害車の幅が約二メートルであつて、片側約三・五メートル空いており、後方から進行してくる車両は十分これを追越すことができた。(3)付近にある三差路交差点から一二・五メートル離れて駐車しており、交差点内の駐車ではない。

そして、本件事故は亡巧の一方的な過失により発生したものであり、加害車に構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告は自賠法三条但書により、本件損害賠償の責任はない。

三  自動車の保管場所の確保等に関する法律(昭和三七年法第一四五号)五条一項、二項二号違反の事実が仮りにあるとしても、運転者の過失の有無とは無関係である。

(被告の主張に対する原告の反論)

一  加害車の駐車方法は少なくとも次の三点の違法があるから、到底無過失とはいえない。

(一) 同堤防上は照明設備のない暗い場所であるのに無燈火であり、後部反射鏡は泥で汚れ、有効に作動していなかつた。

(二) 事故現場は相当交通量が多いのに、道路右側の余地が一メートルあるなしの位置に駐車した。

(三) しかも、駐車位置は、堤防上の道路と西方に通ずる道路との三差路交差点上でもあつた。

二  自動車の保管場所の確保等に関する法律違反

加害車は、本件事故以前から相当長期に亘り本件駐車場所を保管場所として使用しているうえ(同法五条一項違反)、本件事故以前に、右場所に夜間引き続き八時間以上駐車していた(同法条二項二号違反)。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生と結果

請求原因一項の事実中、発生時、発生場所、加害車、その所有者、被害車および被害者の点は当事者間に争いがなく、これらの事実に成立に争いのない甲第一号証の一ないし三、同第二号証、同第三号証の一ないし九、証人金島宏こと金宏の証言ならびに弁論の全趣旨によれば、原告らの子訴外亡巧は自動二輪車の後部に友人を乗せて、敦賀市呉竹町笙の川西岸堤防上を進行中、進路前方に駐車中の加害車を避けようとして、道路右側部分に進路を転じようとしたが、及ばず加害車後部右側と接触し、そのため道路右側端から堤防下へ落下して顔面骨骨折、左上膊複雑骨折等の傷害により出血多量となり、事故当夜一一時頃死亡したことが認められる。

二  被告の責任

(一)  被告が本件加害車についての、昭和四七年六月一四日から同四八年六月一四日までの期間における自動車損害賠償責任保険の保険者であり、本件事故の発生が右保険期間内であることは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、先ず加害車の道路上における駐車が自賠法三条の「運行」に該当するか否かにつき検討するに、同条三条にいう「運行」とは同法二条二項により自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいうが、それは自動車を原動機により移動させる場合に限らず、駐停車中の事故であつても、当該事故の発生と自動車の運行との間に相当因果関係があり、駐停車が運行の一態様と認められる限り積極に解するのが相当である。ところで、本件事故は、当時加害車を使用して砂利運搬の仕事に従事していた訴外金が一日の仕事を終え、翌朝五時頃仕事を始めるのに備えて、加害車を事故当夜七時三〇分過頃から本件道路上に駐車していた間に発生したものであり、しかも同人が駐車して自動車の許を立去つた約一時間三〇分後に発生したものであることは後記認定のとおりであるから、本件事故は加害車の運行中に発生した事故でないことはもとより、本件事故の発生と加害車運行との間に相当因果関係があるということもできない。

そうだとすれば、被告は、既にこの点において本件事故につき自賠法一六条に基づく損害賠償義務はないというべきである。

(三)  自賠法三条但書の免責

また、被告には以下述べるとおり自賠法三条但書の免責の抗弁が成立し、この点からしても本件損害賠償の責任はないといわざるを得ない。

すなわち、前掲各証拠を総合し、弁論の全趣旨に徴すると、

1  訴外金は、当時加害車を使用して砂利運搬の業務に従事していたが、事故当日も砂利運搬の仕事を終えた後、普段は笙の川西岸堤防上よりもつと西側にあるアパートの傍の空地に駐車するのを、たまたま翌早朝五時頃に仕事に出かける必要があつたため、事故当夜七時三〇分過頃、加害車を北側に向け左側草むらへ車体の三分の一程度寄せ、残りを道路上にはみ出した状態で左側に寄せて駐車し、その場を立去つたこと

2  駐車位置は、堤防上の道路と西方に通ずる道路との三差路交差点上ではなく、これから約一二・五メートル離れた場所にあるうえ、本件事故現場付近の道路の幅員は約五・五メートル、加害車の幅が約二メートルであつて、加害車の右側に約三・五メートルあまり余地があるから、後方から進行してくる車両は十分追越すことができ、自動車の運行に特段の障害があつたという状況にないことおよび事故現場付近の交通量は通常時においては割合多いものの、夜間は比較的閑散であり、また北進する大型自動車の通行禁止場所に指定されているが、訴外金の使用する加害車は四トン車の普通トラツクであるから通行禁止にならないこと

3  さらに事故現場付近は笙の川沿いに北方(松原橋)および南方(衛生処理場)に向かつて相当長距離に亘り一直線に見とおせる場所であり、しかもアスフアルト舗装された平坦な道路であるから、夜間でも通常の注意をしておれば本件加害車のごとき障害物はかなり前方から容易に発見し得る状況にあつたこと。

4  加えて事故現場付近は照明設備もなく人家等の明りもない暗い場所であり、事故当夜訴外金は後部ランプを点燈せず、注意標識等も設置しなかつたが、仕事が終えると大抵洗車しており、特に後部ランプはいつも拭いてよく見える状態にしているので、事故当夜も加害車後部の左右に一個づつある反射器は泥をかぶつておらず、有効に設置作動していたこと(後部右側の反射鏡は曲がつているが、これは本件事故によるものであること)、その他エンジン、ブレーキ等構造上の欠陥は見当たらないこと

以上の各事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。しかして、右に認定したところによれば、訴外金において加害車の運行に関し別段注意を怠つたということはできないのみならず、本件事故現場付近における道路状態と見とおし状況、加害車の駐車位置、追越に十分足りる道路幅員等の点に徴すると、訴外亡巧は前方をよく注視せずに相当高いスピードで走つていたため、通常ならばかなり手前の地点で加害車の存在に気付くところ、その発見が遅れ、加害車後部右側に接触したものと推認することができるから、本件事故は専ら亡巧の前方注視義務等の懈怠に基因するものといわざるを得ない。したがつて、被告は自賠法三条但書により、本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がないというべきである。

(四)  なお、原告らは、加害車につき自動車の保管場所の確保等に関する法律五条一項、二項二号の各違反がある旨主張するところ、同条一項違反の点については本件全証拠によるも訴外金が本件道路を加害車の通常使用する場所として使用した事実を認めることはできないし、同条二項二号違反の点については証人金宏の証言によりこれに該当する事実(夜間道路上の同一の場所に引き続き八時間以上駐車)は窺われるけれども、そもそも同法は、自動車の保有者等に自動車の保管場所を確保し、道路を自動車の保管場所として使用しないよう義務づけるとともに、自動車の駐車に関する規制を強化することにより、道路使用の適正化及び道路交通の円滑化を図る(同法一条)という行政目的を実現するため制定されたものであつて、道路交通の安全を直接の目的とするものではないから、前記違反の事実があるからといつて、直ちに訴外金において加害車の運行に関し注意を怠つたということにはならない。

三  以上の次第であつて、原告らの本訴各請求はいずれの点からしても理由がないことに帰するので、失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鏑木重明)

1 収入の推定とその現価

<省略>

1年後収入開始とみる、19歳の収入は、すべておそ目の2年後に取得とみる。

2 ホフマン係数表

<省略>

3 生活費控除

26,732,218×1/2=13,366,109

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